シルクロード絵描き旅

中央アジア・シルクロード。ひとりの絵描きの放浪記。

9/11 カザフ族のゲルにホームステイ (3、アッサウタイ物語)

 

 

 

 

 

 

 

 

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アッサウタイは草原の真ん中の、名も知らぬ土地に住んでいた。

5歳のアッサウタイは1歳になる妹のコーサルと父、母と暮らしていた。

彼には上の兄姉が3人いるが、みな街の学校へ行ってしまっており一緒に住んでいない。

 

 

 

モンゴルでは子供は6歳から学校に上がる。遊牧生活をしている家庭では、子供はわずか6歳で親元を離れ学校の寄宿舎で生活するのだ。

 

アッサウタイも来年には学校に上がる。だから今年が家族と暮らす最後の時間だ。しかしまだ小さな彼はその事をよく理解していないだろう。

 

アッサウタイと同じ年頃の男の子はここにはいない。

辺りにはゲルが3つ、並んで建っている。だが妹のコーサルはもちろん、この地には3、4歳までの女の子しかいなかった。だから彼の遊び相手は彼自身だ。全身をばたつかせて、冷たい風吹く固い地面を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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彼のゲルの隣にはカイラット・カン、ミニー・カン夫婦が住んでいた。

彼ら夫婦にも5人の子供がいるがもうとっくに巣立っていて、今は遠くウランバートルや隣町ウラーンホス、サグサイなど方々に散っている。寂しい夫婦二人にとっては元気なアッサウタイは実の子供のように可愛いものだった。

年々力が付いてきているアッサウタイの相撲取りの相手は、カイラット・カンやミニー・カンと決まっていた。

 

 

 

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カイラット・カン、ミニー・カンのゲルには世界中から旅人が泊まりにやって来る。

どのようないきさつか知らないが、カザフ族が大勢定住をしているバヤン=ウルギーという街から、旅人がジープに乗せられやって来、2~3日だけ滞在して帰ってゆくのだ。

こんな何もない草原にここだけ、さながらひっそり国際交流が行われているなんて面白いじゃないか。

 

 

 

 

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今度の旅人は日本人だった。黒髪に黒い目、小さい女だった。…わたしの事である。

まるで子供のようなその体躯でガイドも付けず、たった一人でやって来たわたしは、ミニーカンの淹れたチャイをやや緊張ぎみにすすった。

アッサウタイは、わたしを薪ストーブ越しから伺った。

 

 

日本人の女はアッサウタイにしきりに目を向けていたが、彼女は自分やカイラット・カンの話す言葉を何一つわかっちゃいない風だった。

 

 

 お互いはお互いに興味を示しながらも、両者はしばらく黙って座っていた。

 

 

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ともあれ、カイラットからもらった棒付きキャンディを二本ともいっぺんに口に入れて、アッサウタイはご機嫌だった。

アッサウタイはたぬき寝入りごっこが好きだ。キャンディを口からはみ出しながら嘘の寝息をたてているアッサウタイの足を、わたしは試しにつついてみた。

 

するとアッサウタイはいたずら笑顔で跳ね起き、場所を変えて、またたぬき寝入りをする。わたしは足音を立てないようにそうっと近づいてまたつっついた。

 

アッサウタイが笑い声を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アッサウタイのお母さんの表情からは、遊牧生活をしながら子を産み育てる事の如何が表れているようだった。

 

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小さなアッサウタイにも牛追いができる。

夕方には、放牧していた牛を集めて繋ぐのがアッサウタイの毎日の仕事だった。

自分より大きい牛を器用に追い立てて牛繋ぎ場に戻してゆく様…。

あどけない子供の姿にある、されど逞しい一面と、遊牧民の底知れない強さを、わたしは乾いた風に震えながら感じていた。

 

 

 

 

 

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そうはいってもやっぱりまだ子供だ。

牛追いの仕事そっちのけで、有り余る力いっぱい遊び周りたくなる。

 

 

 

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アッサウタイにとって牛糞はおもちゃだった。

古い荷車のタイヤの凹凸に牛糞を塗りつけて遊んだ。わたしがげっ、と嫌な顔をすると牛糞の付いた紙をこちらにかざして追いかけて来た。

 

タイヤの牛糞が指に付くと、荷車に座る妹のコーサルは、大きな目と眉を困らせて『取って。』とわたしにせがんだ。

コーサルの悩ましい困り顔に観念したわたしは、コーサルの指に付いた牛糞を素手で払った。

 

 

 

 

 

 

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力あり余るアッサウタイは、何をするにも全力だ。

無駄なことにもエネルギーをつかってあそぶ。

力を抑える事など彼は知らないのだ。

 

 

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コーサルの甘えた困り顔に参ってしまうわたし。

彼女の『あれして。』『これして。』には逆らえなかった。

 

 

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…可愛い可愛いアッサウタイやコーサルと遊んでいる時、

私はまるで彼らを主人公にした物語の中にいるような心地でした。

 

今、その時の写真を見返して二人の事を思うと、涙が出てきてしまいます。

 

 

 

 

 

 

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