シルクロード絵描き旅

中央アジア・シルクロード。ひとりの絵描きの放浪記。

8/24 ウルムチからアルタイへの移動 続き

 

 

前記事の続き。

 

 

unhuman.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

アルタイに着く直前、私はスマホの電源を入れました。私のだって電池は半分以下。旧いスマホで電池の減りが早いので電源を切っていたのです。私は改めてアルタイの地図を開きました。

 

 

しまった…。

ここに来て初めて気が付きました。ダウンロードしていたアルタイの地図は、町が小さすぎるためか詳細な情報がなかったのです。載っているのは大まかな道路だけで、建物や施設情報は地図を拡大しても出てきませんでした。

それでも、それでもです、町が小さいという事はそれだけ宿探しに歩く手間が省けるのです。小さい町の宿なんてすぐ見つかります、外国人の泊まれる宿も若干高いにしろ一晩分だからそれは大したことはなく、問題ないはずでした。

ただ、今回は奴の存在があります。

時間は北京時間で11時をまわるでしょう。わたしは彼を撒けるでしょうか。

 

 

 

 

結局夜遅くにアルタイに到着した私たちは、何軒かの宿をあたりましたが断られ、そこの人に外国人の泊まれる宿を教えてもらったのでした。

それはべらぼうに高級なホテルでした。

今まで一晩800円ほどのホステルを使っていた私には、ただ夜を明かすためだけに超大金を支払う事が途方もなくばからしく感じられました。

 

私は渋っていました。

 

横には例の彼がいます。

 

ほとんど変わらない表情からその思考がまだ読めません。が。

 

この人は一人ではなにも出来ないんだ -

 

私との会話にしろ宿探しにしろ、道選びにしても考えようとしていない。私がAと言えばAに、Bと言えばBに従う。

私は彼に嫌悪を感じながらも、追い払いきれずにいました。なにより私ははっきり言っています、同じ部屋には泊まらない、近寄るな、嫌だ、と。

なおも何も言わず着いてくるのは携帯の充電もアルタイの情報もないからだろう…。他に何か期待していたとしてもまず近寄らせない。

彼は元々アルタイに来るつもりではなかった。今夜アルタイに一泊したら翌朝すぐ帰ると言っている。

 

 

 

ツインルームを二人で割って、翌朝とっとと帰ってもらうのが一番得をする - 。

 

 

疲れて回らない頭で、私はお金と安全を天秤にかけていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

今すぐ出ていくと言ったのに…。

彼はこの期に及んで翻訳機で時間をかけてなにやら文章を打っています。

私のイライラは積もります。

 

君は明日どこに行くのか。

我不能说(言えません)。

するとまた、どうして言えないの?

訊かねば去れないといった雰囲気です。

 

 

 

私は痺れを切らしてフロントへの電話機に手を伸ばしました。

すると彼は持っていたスマホのカバーを床に叩き付けました。

私がびくっと身じろぎすると彼は翻訳機で、

请不要生气。我道歉。

(怒らないでください、私はもう謝ったじゃないか。)』

 

ぞっとしました。

私は彼の気が心底知れませんでしたが彼にもう何を言っても無駄です。

 

 

 

早く服を着て、出てって。

そう、彼はパンツ一枚。

 

 

服を着た彼は、部屋代の半分とチェックイン時に払ったデポジット、更に私に出させてくれなかった朝昼の食事代を請求してきました。

ええ、払うから早く出ていって。

私は彼が廊下に出たのを見届けてからお札を渡し、やっとドアを閉めてすぐに鍵をかけました。

 

 

 

 

長かった…。

私はふーっとため息をつきました。

 

 

 

この時夜中の3時半ごろだったでしょうか。

 

 

しかし心臓のドキドキは納まりません。

しばらく待ってから私はフロントへ電話をかけました。彼がちゃんとホテルを出ているか確認できなければ安心できなかったのです。

 

 

フロントへの電話は何度かけてもなかなか繋がりません。

やっと繋がったかと思えば、ひどく機嫌の悪そうな声で『わたしあなたの中国語わかんないから、英語対応の番号にかけて。』です。

『何番ですか、こちらに英語の番号はありません。』

教えてもらった英語対応の番号にかけても出てくれません。

 

 

とてもとても嫌な言い方ですが、こうだろうと思っていました。中国の人の対応はこれが普通なんです。

私がすべき事はただ諦めずに、先ほど電話に出たスタッフに説得するのみなのです。

 

 

パソコンの翻訳機で『緊急です。すぐ部屋に来てください。』と喋らせ、スピーカーに受話器を近づけます。一度それで分かったと言われましたが、それでも一向にスタッフが部屋に来る気配はありません。

もう一度電話してやっと来てくれたスタッフは、英語対応の出来るスタッフに電話をかけてくれました。

私は彼におおかたのあらましを伝え、詳しく話すから部屋に来てほしいと告げました。

『もちろんです、すぐ駆け付けます。』

 

 

来てくれたスタッフにいままでのいきさつを話し、彼の名前を伝えもう戻って来ないよう、私の居場所を訪ねられても答えないよう、フロントに伝えてくれと頼みました。

英語の出来るスタッフに話してからは非常にスムーズに事が進みました。

 

スタッフは彼に電話をかけました、彼はもう他の宿に移っており明日ウルムチに帰ると言ったそうです。

感情で行動する彼の事なので、私にはそれが信じられませんでしたが、ひとまず安心してよさそうです。

 

 

 

 

 

私は翌日14時のチェックアウト時間ギリギリまで休みました。まる2日ぶりにシャワーを浴び、調べものをして、部屋を出てフロントへと降りました。

 

フロントにいた昨日のスタッフは、昨夜こちらが私の時間を割いたからと宿代を減額してくれ、何も食べずに出るのは良くないからとホテルのブッフェをご馳走してくれました。思えば、昨日の昼からまる一日何も食べていませんでした。

スタッフの手厚い対応はひび割れた土に沁み込む水のようでした。

彼と接している間は感謝の気持ちが湧きましたが、沈鬱とした憔悴は消えませんでした。

 

 

 

 

 

アルタイの街への興味もすっかりなくなってしまった。この次のカナスを観光する意欲もまったくありませんが、これ以上ここに留まっても今の気分はなにも変わらないでしょう。

彼にはお礼を言い、私は昨夜到着したバスステーションに向かい、アルタイの街を見ることなくそのままカナスへと移動したのでした。

 

 

 

 

 

力のない目で、流れていく景色をぼんやり見ていました。しかしピントはどこにも合っていません。

 

 

 

 

思えば、彼を追い払うタイミングなど幾らでもあった。彼以外の人にもっと頼ればよかった。最初バスでしつこくされたときに周りに助けを求めればよかった。早い段階で拒絶すればよかった。

彼にかけてしまったわずかな情けもあったし、夜道を歩くには二人の方が逆に安全だとか、後半は彼の存在を利用する事ばかり考えていた…。

 

 

 

自分の甘さ、後悔、スタッフのサービスさえも、事もあろうか更に自分を惨めな気持ちにさせる。

そんな自分にほとほと嫌気がさしました。

 

 

 

 

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