シルクロード絵描き旅

中央アジア・シルクロード。ひとりの絵描きの放浪記。

大きくて透明な瞳 -東チベット 小さな物語。-

 

 

 

 

 

 

こんにちは。

 

りょうこです♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は物語風に。

 

 

2015年11月28日 

 

中国 四川省 (東チベット)

ガンゼから徳格へ向かう時のエピソード

 

 

 

 

 

 

 

 

乗り合いバンにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の隣に座る帽子の男は、沢山の荷物を持って途中乗車してきた。

 

 

 

 彼がドライバーと荷物を積んでいる最中、彼の帽子がひらりと風に舞い、慌てて追いかける様子を、私は席から見ていた。

 

 帽子を拾った彼は、心底ほっとした表情で大事そうに帽子を被り直した。

その帽子はこの寒い東チベットに似合わない、夏用の薄い素材のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までに出会ってきた藏族は、男女とも気さくで、少しやんちゃなっぽくて、笑顔で話しかけてくれる。そんな人が多かった。

 助手席にいる男性はまさにそんな感じ。彼が分けてくれた食べ物のお返しに、持っていたお菓子を配った。

 

 

 

 

 帽子の男にも渡すと、彼は静かに受け取り、しばらく間をおいて、私が口をつけるのを見ると彼も食べた。

 

 

 

 

 顎鬚と民族衣装がよく似合う彼は、一言も話に加わらない。私が助手席の男性と話していて実家の雪の写真を見せると、顎と大きな目を動かし、後ろからそれを覗こうとした。

 

 しかし一言も発しない。

 

 

 

 

 

 

 

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 舗装されていない崖道が続く。

 車が揺れて、ハンドブレーキの後ろに置いてあるドライバーの水筒が傾いた。ドライバーも誰もそんな事を気にしなかった。

 帽子の男だけが静かに手を伸ばし、それを直した。

 

 

 

 

 

 

 

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 乗り合いバンは山を越え、また一つ越え、相変わらず崖道を進み、街へと入った。

 この古い街が徳格なのだろうか。

 

ここが徳格なのかと帽子の男に訊ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると男は、大きくて丸い瞳と眉を下げて、小さな声で

『中国語は分からないんだ。』

と抑揚の少ない中国語を話した。

 

 

 

 

 彼との会話はたったそれだけだった。

 瞳は透明に、繊細に控えめに光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そこが徳格だったので、私は下車し、安宿を数軒回ってチェックインを済ませ、遅い昼食を終えて、ゴンパに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

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ここ徳格のゴンパは今までに見たものと比べて小さな寺なのだが、歴史は古く、遠くから参拝者が訪れるような地だそうだ。

 坂道を上って、小さなお堂が見えると、多くの藏族が建物を時計回りに周回している。

 

 

 

 

 

 

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 すると前から歩いてきたその一人が、私に向かって手を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの帽子の男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の笑顔はとても柔らかく、眉は少し下がり、しかし眉間は弛み、目尻には皺を作って、丸い目は暖かく光った。

 

 

先程の乗り合いバンでの、何かに怯えたような瞳とは真逆だった。

 

 

 私は自分がごくごく自然に笑顔になっていることに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帽子の男の笑顔は一瞬だけで、彼は周回する足を止めなかった。

 

 

 

 

 でも、私にはその一瞬が、まるでとても長い時間だったように感じた。

 私の脳裏には彼の透明な笑顔がしっかり焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 彼との時間はたったそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(写真左がこのお話の主役、帽子の男です。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ryoko.

 

 

 

 

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